安佐島プロジェクト Floating Museum(仮称)

柳のアートと建築が一体となった美術館の設計に加え、レストラン/チケットセンター、植物園など、安佐島シンチョン貯水湖に浮かぶ美術館を中心としたサイト全体のグランドデザインに関わるプロジェクトである。

浮遊する美術館

安佐島プロジェクト -Floating Museum-(仮称)

安佐島の貯水湖に浮かぶ7つのキューブは韓国全羅南道西部の多島海および地球の大陸の数を表し、大きさが違う各キューブは鏡素材の外壁により風景を擬態するとともに、鏡面相互の重複した映り込みによる方向喪失感と、大地から切り離された浮遊感が不安定な現代=世界を表象している。そして各キューブ内には安佐島の自然とユーラシア大陸の最東端に位置する朝鮮半島の歴史的メタファーを想起させる私の代表的作品が、建築と一体となってサイトスペシフィックに常設展示されている。

柳幸典

プロジェクト背景

韓国の新安郡・安佐島の湖に浮かぶ柳幸典の美術館「FLOATING MUSEUM(仮称)」が5年の構想を経て2024年春に完成します。
新安郡は、韓国の最西南端、全羅道の多島海に位置する人口約3万人の自治体。有人島72島、無人島932島の計1004島で構成され、韓国で数字の「1004」は、「天使」の発音と同じであることから「天使の島」と呼ばれており、小都市のすべてが島という地理的特性を持っています。1976年に新安沖で発見された新安沈船と呼ばれる沈没船は、1323年に中国の慶元(現在の寧波)と日本の博多を結ぶ貿易船であると判明し、新安の海が人、もの、文化、技術などの相互交流のルートであったことを裏付けています。こうした海の交流が礎にある地域のため、本土側の港町・木浦からの各島への移動は船しか手段がありませんでしたが、2019年に全長10.8kmの「1004大橋」が開通し、陸路から移動できる島々が徐々に増えています。新安は海の面積が陸地面積より約70倍も大きく、韓国最大規模の干潟が代表的です。この干潟はユネスコ自然遺産に登録されるほど多くの絶滅危惧種が生息する宝庫でもあります。また、韓国内の塩の最上級と呼ばれる天然塩の88%以上が生産される広大な塩田を含め、豊かな自然の風景を持っています。しかし、近年ではソウルを中心とする首都圏への人口集中により地方からの若年層の流出が著しく、少子高齢化の問題などに直面して地域の活性化に取り組んでおり、2019年から新安郡主体で一つの島に一つの博物館または美術館を建設する「1島1ミュージアム」プロジェクトが始まるなど「文化芸術の島」として力を入れ始めました。

韓国と日本の外交は、1375 年(永和元年)に室町幕府第3代将軍の足利義満が派遣した日本国王使に対して、当時朝鮮半島を支配していた高麗王朝が返礼のため派遣した外交使節団に始まり、1413年(応永 20 年)に第 1 回「朝鮮通信使」が送られました。「通信」とは「信(よしみ)」(信義)を「通わす」という意味で、その後、中断と再開を繰り返しながら 1811 年(文化 8 年)までに12 回ほど行われ、両国の平和的友好関係を維持するとともに文化の発展に貢献しました。この内の第 8 次・9 次の朝鮮通信使の折衝役に尽力した対馬藩の真文役(朝鮮外交官)の雨森芳洲は、61歳のときに著した「交隣提醒」の最終項「誠信の交(まじわり)」で、「誠信と申し候は互いに欺かず、争わず、真実を以って交わり」と強調したように、外交では相手の風俗習慣をよく理解し、お互いを尊重しあうことが肝要であることを訴えています。

新安郡の美術館プロジェクトの総合プロデューサーは、こうした日韓の繋がりを重要視する中で、日本の岡山県犬島にある犬島精錬所美術館における芸術家の仕事に着目し、柳に現地視察を依頼しました。そして、「御本尊のない箱を作っても意味がない」という柳の美術館に対する意識を汲み、柳の建築チームによる設計で柳作品を常設する湖に浮かぶ美術館「FLOATING MUSEUM(仮称)」 を中心に周辺環境を整備していくプロジェクトがスタートしました。以降、日韓関係の悪化や新型コロナウイルスの影響により渡航が困難な状況が続き、当初の予定から大幅に延びてしまった本プロジェクトですが、オンラインでの遠隔調整を経て、2024年春の公開を目指した建設が佳境にきています。

安佐島プロジェクト

全羅南道新安郡

総合監督:姜瑩基(Hyoungkee Kang)
芸術監督・アート:柳幸典

建築設計:YANAGI + ART BASE
ディレクター/アーティスト : 柳幸典
アーキテクト:樫原徹
ビデオグラファー:泉山朗土
プロジェクトマネジメント:YANAGI STUDIO

設計協力:SPACE GROUP
コーディネート:Hzone
施工:Young Chang Construction Co.
ポンツーン制作・進水:BLUE OCEAN TECH Co.
イカロス設計協力:GEEUMPLUS
イカロス施工:MBK KOREA Co., Ltd. / C2 Artechnolozy Co., Ltd.
照明施工:STUDIO FORMGIVER
制作協力:Salt Hill / ART & FORMATIME
撮影協力:KUNST

安佐島について

安佐島は、1917年に東側の「安昌島」と西側の「箕佐島」の2つの島の間にある干潟を干拓事業で埋め立て、二つの島の名前を合わせて生まれました。安佐島は新安で一番大きな島で総面積59.88km²、人口は約3000人。新安の他の島々へ移動できる港があるため、交通の中心地として役割を果たしています。かつては平野のない起伏の多い土地でしたが、大規模な干拓事業を通じて稲作と塩田事業が活性化した地域でもあります。また、韓国の代表的な抽象画家の金煥基(1913-1974)の故郷であることは広く知られており、生家は国家民俗文化財に指定され、韓国の近現代美術史において先駆者的な役割を果たした金煥基の出発点という象徴的な文脈とともに歴史·文化的価値が認められています。

アクセス

安佐島プロジェクト

公式ウェブサイト:安佐島プロジェクト